大麻取締法の根本的な問題点と大麻草の有用性
弁護人 丸井英弘
第1
-大麻取締法の根本的 問題点と日本人のアイデンティティ-
1−1. 大麻とは、縄文時代の古来から衣料用・食料用・紙用・医療用・儀式用に使われ、日本人に親しまれてきた麻のことであり、第二次大戦前はその栽培が国家によって奨励されてきたものである。
私の法律事務所は東京都国分寺市にあるが、国分寺は昔武蔵野国の時代に多麻と呼ばれた地域であって、麻の栽培が多く行なわれていたとのことであり、近くには多摩川が流れているが、多摩川とは麻が多く栽培されている川という意味で、多摩川べりには川崎市麻生区という地名も残っている程である。大麻つまり麻は武蔵野国の特産品であった歴史があり、調布という地名も麻布に関係しているものである。また私は名古屋で生れたが、私および三人の弟は麻模様の産着で育てられたのであり、大麻との強い縁を感じている。
京都にある麻製品を扱う「麻にこだわる麻の館、麻小路」という店のパンフレットでは次のように 云っており、麻がいかに素晴らしいものであるのかがわかる。
『魔除けの麻幸せを呼ぶ麻』
古来から「麻」は神聖なるものとして取り扱われてきました。今は、昔、天上より麻の草木を伝って神々がこの地上に降り立たれたとされ、今日でも神社、社寺、仏閣で、特に魔よけ、厄除け、おはらい等に種々用いられております。特に魔よけとして縁起物に
はよく使われております。「麻」の育成が素晴らしく速く、その成長が発展、拡大にもつながり大きく根を張ることも含めて、商売繁盛、事業発展、子孫繁栄にも根を張るとして、縁起物で重宝されております。事ある毎に「麻」にふれる機会の多い人ほど幸せであるといわれております。粋をつくした「麻製品」色々取揃えております。四季を通じてお楽しみ下さい。』
そもそも大麻とは神道において天照大神の御印とされ、日本人の魂であり、罪・けがれを払う神聖なものとされてきたのである。天照大神とは、生命の源である太陽すなわち大自然のエネルギーのことであり大麻はその大自然の太陽エネルギーを具体化したものであって、日本人の魂とは、麻に象徴される大自然のエネルギーのお陰で生かされているという心のあり方を云うのではないかと思う。大麻は天の岩戸開きの際にも使われているし、新天皇の即位に際して行なわれている大嘗祭において新天皇が使用した着物も麻で織られているのである。この麻の着物は「あらたえ」と呼ばれているが、徳島県に住む古来から麻の栽培・管理をしてきた忌部氏の子孫によって献上されたものである。
このような罪・穢れを祓うとされた神聖なる大麻が、第二次大戦後の占領政策のもとで犯罪の対象物とされてしまったのである。
占領政策の目的は、日本の古来の文化を否定し、アメリカ型の産業社会を作ることにあったと思われるが、日本人にとって罪・穢れを祓うものとされてきた大麻を犯罪として規制することは大麻に対する従来の価値観の完全なる否定であり、極めて重大なことであると思う。
私は1944年(昭和19年)生まれであり、アメリカの影響を受けた戦後教育を受けたが、日本の良き伝統に対する教育を受けなかったために日本人としてのアイデンティティを充分に確立することができなかったように思う。
日本は、明治維新によっていわゆる近代化の道を歩んだのであるが、特に第二次世界大戦は、戦後生活の建て直しということもあり、物中心の競争原理に立った経済活動を優先してきたと思う。また、生活習慣も、例えば、食生活が米からパンに変わり、畳の生活も椅子の生活に、薬の分野でもいわゆる化学的合成薬が取り入れられ、従来の東洋医学は軽視されてきたのである。大麻は薬用として何千年も使 用され、日本薬局方にも当初から有用な薬として登載されていたのかかわず、大麻取締法の施行に伴って薬局方から除外されてしまったのである。
人間は、植物を初めとする自然の恵みの中で生かされているのであって、日本人の伝統の中には自然を聖なるものとして大切にしてきたものがあった。しかし経済復興の名のもとに、例えばダムの建設等自然生態系とそこに住む人々の生活を破壊する経済開発が国策として進められてきたために、川や海そして大気は汚染されてしまったのである。また、精神面でも、生活の中心が他者との競争関係に立った上での物質生活の確保にあったために、心の根底に不安感と孤独間を抱えたままの精神生活をしてきたと思う。
「人はどこから来てどこへ行くのか」というのが人生の大問題であるが、どこからきたのかもわからずどこへ行くのかもわからないのでは人生の生きがいがわからないということになる。まさに「人はパンのみにては生きるにあらず」とは聖書の言葉であるが、この意味での人生に対する良き信念が、大自然との融合的生活という過去の良き日本の伝統が切断されたことによって、無くなってしまっ たのではないかと思う。
大麻取締法は、日本人にとって、大自然のシンボルであり罪・穢れを祓うものとされてきた大麻を、聖なるものから犯罪にしたものであって、まさに日本人の精神を根底から否定するものである。それは例えば日本人に英語のみを話すことを強要するのと同様な日本文化の否定であり、さらに大麻の持つ産業用や医療用の有効利用を妨げるものである。
1−2. 大麻とは、犯罪とは何か。大麻の取扱いは果たして刑事罰で取り締るべきものなのか?
大麻取締法は、大麻の取扱について免許制度を採用し、懲役刑という刑事罰でもって無免許の取扱を禁止している。大麻の取扱をなぜ禁止しているのか、つまり大麻取締法の目的について同法は何らの規定を置いていない。このように目的規定のない法律はそもそもその存在理由が不明確であるから、民主主義社会においては無効とされるべきであろう。
厚生省や警察等取締り当局や裁判所は、大麻取締法の目的として、大麻の使用による国民の保健衛生上の危害の防止である」と説明している。しかしながら、「国民の保健衛生上の危害の防止」という抽象的な疑念を刑事罰の目的つまり法律で保護される利益(法律学上は保護法益といわれる)とすること自体、人権尊重を基本理念とする近代的法体系にはなじまないものである。刑事罰特に懲役刑は、人の意に反して身体の自由を束縛し、労働を強制するのであるから、それを課される者にとっては、人権侵害そのものであるので、刑事罰の適用は必要かつ最小限にするべきである。
大麻の使用が、どのような保健衛生上の危害を生じるのかについて、過去の裁判所の判例は、大麻には向精神作用があり、精神異常や幻覚が生じるとしているが、そこでいう精神異常や幻覚の内容については、例えば時間感覚がゆったりする、味覚・聴覚・視覚などの感覚が敏感になる(つまりよくなる)ということであって、刑事罰でもって取締らなければならない反社会的な犯罪行為とはまったく云えないものである。向精神作用自体が危険であり、犯罪であるとすれば、アルコールの有する向精神作用(いわゆる酔いの作用)は大麻と比べ格段に強いものでありアルコールを大麻以上に厳しく取締らなければならなくなる。また、そもそも人間は自らの体内で向精神作用を有する神経伝達物質を生産するのであ
り、例えば何かに集中したり、恋愛中であったり、また、大麻取締法違反等刑事事件で逮捕されたりしてショックを受けるとアドレナリンやドーパミン等いわゆる脳内麻薬と呼ばれる神経伝達物質を生産するのである。
逮捕されること自体が神経伝達物質を生じさせるのであるから、大麻取締法そのものが、保健衛生上有害といえるのであって取締りの対象にしければならなくなってしまうのである。そして判例で、大麻使用の危険性として具体的に指摘しているのは、自動車の運転のみである。しかし、道路交通法では、アルコールも含めた大麻など薬物の影響下で車を運転することを刑事罰で規制しており、また大麻の中毒者は運転免許の欠格事由とされているのであるから、この規制に加え、大麻の取扱を一率に刑事罰でもって禁止することは、ただ単に犯罪者の数を増やすだけである。
私は、過去50年間もの間大麻取締法違反事件の弁護活動を通じて、多くの大麻使用経験者に出会ったが、大麻の向精神作用は心身がリラックスすること、味覚・聴覚・など感覚が良くなること程度であり、具体的な弊害は発見できなかった。
大麻使用の経験者には実質的にみて悪いことをしているという意識はなく、大麻取締法という法律に対し実質的権威を感じるものは皆無である。むしろ問題なのは、実質的な権威のない法律の存在によって司法に対する信頼感が喪失し、法治主義の基盤が崩壊することである。

第2
-大麻の有益性-
大麻は、有害どころか、次に述べるように、人類に対し精神的にも肉体的にも有益である。このような有益な大麻は、規制するどころか第二次大戦前の日本の様に、その栽培を奨励することが必要ではないかと思われる。それが農業の活性化と熱帯林の伐採の禁止や空気の浄化さらには温暖化対策(大麻には、木と同等以上の炭酸同化作用がありうる。)にもつながる可能性があるのではないかと思われる。
2−1.人類がこの地球で生きていくために必要な燃料を生産できる。大麻の茎や葉を発酵させるとエタノールやメタンガスなどの燃料が生成されるが、それは石油や原子力に替わるエネルギー源になりうる。
2−2. 環境上安全な紙や建築材料が生産でき、森林を守ることができ地球温暖化対策にも有効である。
大麻の茎に含まれるセルロースを原料として有機塩素による漂白を必要しない紙が作れる。なお、今から1200年程前の西暦770年頃に中国で作られた仏典は麻から出来ているし、アメリカなどでは国旗や紙幣が麻の茎から作られた。
大麻の生育期間は木に比べて非常に早く半年程度であるので、大麻から紙や建築材料を生産すれば永続可能な状態で原料の供給ができ、森林伐採をする必要がなくなり、地球の緑を守ることが可能である。その結果、地球温暖化対策にも有効である。
2−3. 環境上安全な生分解性のプラスチックが生産できる。麻の茎に含まれているセルロースを原料として自然に土に分解するプラスチックが生産できる。石油からできるプラスチックの場合には、土に分解せずまた燃焼するとダイオキシンなどが含まれている有毒ガスを発生する可能性があるので、現在深刻な環境問題になっているが、この問題を解決できる。
2−4. 麻の種は、栄養食品として極めて価値が高い。
現代食は、脂肪の量の増加、脂肪の質の低下、必須脂肪酸のバランスの崩れ、植物繊維の不足などにより、生活習慣病(便秘、肥満、高血圧、高脂血、糖尿、ガンなど)の原因になっている。しかし、麻の実はこの様な食生活を改善することができる。
麻の実の重量の30%から35%は、麻実油(おのみゆ)と呼ばれる脂肪油である。麻実油は、植物油の中で必須脂肪酸の割合が80%と最も高く、しかもそのリノール酸とαーリノール酸のバランスが3対1と理想的な割合で含んでいる。
麻の実は、古くから血糖降下作用、潤腸通便作用が高い漢方薬として使われてきました。麻の実には、食物繊維が約23%含まれている。食物繊維は、「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性の炭水化物」と定義され、老化抑制や、ガンの予防にも効果があるとされている。そのため、5大栄養素である糖質(炭水化物)、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルに加えて、食物繊維を第6の栄養素という。一日最低17gの摂取が必要とされ、最近問題になっている生活習慣病の予防のためには一日30g以上が必要といわれている。
麻の実のミネラル分には、骨や歯の形成と成長に欠かせない「マグネシウム」、「リン」、「カルシウム」、が多く含まれている。また、血液中のヘモグロビンの構成成分であり、酸素の運搬に重要な「鉄」やヘモグロビンの合成や骨や血管壁を強化する「銅」も多く含まれている。そのため、麻の実は、貧血の90%の原因になっている鉄欠乏に非常に有効であるといわれている。さらに味覚異常や生殖能力に関係が深い「亜鉛」も含まれている。
2−5. 医薬品として利用できる。大麻取締法では禁止しているが、麻の葉や花穂は副作用が大変少ない喘息や痛み止め・不眠症などの医薬品として過去何千年も中 国、インド、アラブ、アフリカ地方さらには日本で使われてきた。
1895年(明治二八年)12月17日の毎日新聞には次のような広告が載った程である。
「 ぜんそくたばこ印度大麻煙草」として「本剤はぜんそくを発したる時軽症は1本、重症 は2本を常の巻煙草の如く吸う時は即時に全治し毫も身体に害なく抑も喘息を医するの療法に就いて此煙剤の特効且つ適切は既に欧亜医学士諸大家の確論なり。」(小林司著『心に働く薬たち』192頁、発行株式会社筑摩書房)
なお、「印度大麻草」および「印度大麻草エキス」は、1886年に公布された日本薬局方に「鎮痛、鎮静もしくは催眠剤」として収載され、さらに、1906年の第3改正で「印度大麻草チンキ」が追加収載された。これらは、1951年の第5改正日本薬局方まで収載されていたが、第6改正日本薬局方において削除された。
第3
-大麻の作用-
3−1.大麻は薬理作用の上でも麻薬ではなく、社会的にも有害性はない。
麻薬という言葉は、1924年(大正4年)にジュネーブで締結されたアヘン条約の批准に伴い、国内法令としての内務省例7号「麻薬取締規則」が昭和5年に制定された際にできた言葉であって当事業界紙で麻薬とは何だと騒がれたそうである。当時日本では問題になっていたのは、アヘン(その原料はケシ)、ヘロイン等のアヘン系薬物であり、「アヘン類似品」「麻酔薬」「危険薬品」という名称も使われていたのであって、「麻薬」という言葉は「麻酔薬」からでてきたものと思われる。つまり「麻薬」の「麻」はアヘン系薬物の「麻酔薬」の「麻」のことであり、「大麻」の「麻」は「アサ」のことであって両者は何の関係もないのである。
さらに麻薬の薬理学的定義からしても、大麻は麻薬ではない。麻薬を薬理的・社会的に定義すれば次の様にいいうるであろう。
「強い精神的および肉体的依存と使用量を増加する耐性傾向があって、その使用を中止すると禁断症状が起り、精神及び身体に障害を与え、さらには種々の犯罪を誘発する様な薬物」
しかしながら、大麻は薬理的にも社会的にも麻薬では決してなく、また汚染と評価されるような有害なものではない。
大麻が薬理作用の上でも麻薬ではないことは、医学博士の小林司氏が「心にはたらく薬たち」の3頁のまえがきで、「大麻(マリファナ)が麻薬だと誤解している人も多い。こんな人たちの疑問に答えたいと思って、私はこの本を書いた。」で指摘されているとおりである。この見解は医学者の常識であり、「マリファナ」レスター・グリンスプーン、ジェームズ・バカラー著 青土社発行の帯では、次の様にこの本(以下本書という)を紹介している。
「それでも マリファナは麻薬なのか?
医師としての厳正な目でマリファナの薬理を分析し、マリファナが安全な鎮吐・鎮静剤であり、ガン治療の副作用の緩和、緑内障の進行の抑止、アトピー性皮膚炎の治療などに著しい効果の認められる優れた医薬であることを実証して、その豊かな可能性を告げる、衝撃のドキュメント。」
そして、著者のグリンスプーン医学博士は本書のまえがきで次のように述べている。
「1967年にマリファナの研究に手を染めたとき、マリファナが有害な麻薬であって、多くの愚かな若者たちがその害にたいする警告に耳を傾けようとしない、あるいは、それを理解できないでいるのは不幸なことであるという考え方について、私はいささかの疑念ももちあわせていなかった。私は、科学や薬学の専門家の文献や、そうした専門知識をもちあわせていない人たちの手になった文献を詳しく調べていったのだが、3年も経たないうちに私の考えは変わりはじめた。アメリカに住んでいる多くの人たちと同じように、私もまた洗脳されていたのだという事実を理解するにいたったのである」
本書は1993年にYale University Pressより出版された「Marihuana, the Forbidden Medicine」の翻訳書である。本書はマリファナすなわち「大麻の薬効」について書かれたものであり、その歴史や、大麻を使った場合の利益と危険の比較考量、医薬品としての過去と、将来についての可能性を、患者や医師の体験談を交えながら詳しく説明している。
著者の医学博士レスター・グリンスプーン氏は、ハーバード医科大学精神医学科准教授であり、マリファナ研究の第一人者として広く知られている。特に1971年に出版された著書「マリファナ再考 (Marihuana Reconsidered)」は全米でベストセラーを記録し、マリファナの医学的、精神学的、社会的、人類学的要素、そして法律的な側面をとらえた最も権威のある研究であると高い評価を得ている。1977年に改訂され後、本書の出版に続いて1994年に第三版が出ている。
共著者のジェームズ・バカラー氏もまた、ハーバード医科大学精神医学科の教師であり、「ハーバード・メンタル・ヘルス・レター」編集委員を務めている。グリンスプーン氏とともにマリファナをはじめとする「精神変容ドラッグ」の研究に従事しており、二人の共著には「サイケデリック・ドラッグ再考(Psychedelic Drugs Reconsidered)」、「コカインとその社会的変遷(Cocaine: A Drug andIts Social Evolution)」、「「自由社会におけるドラッグ管理(Drug Control in a Free Society)」などがある。